銀座テアトルシネマの《さよなら興行》として、公開されている
作品を観てきました。

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観る前は、もちろんモルトウィスキー好きとして本作に興味を
もったのですが、実際に劇場に足を運ぶと映画として、さらに
銀座テアトルシネマさんが閉館になると聞くと、人生ドラマと
して興味を抱くように、その心境が変化した作品です。

モルト好きとしては、まず初めて耳にするモルト・ミルという
蒸溜所、それから同じく初めて見るというべきか、まだ訪れて
いないというべきかのディーンストン蒸溜所、さらによく知って
いるにも拘らずこれまた初めてみるグレンゴインとバルブレア
の両蒸溜所。これらに触れられるだけで満足なところを、コレ
クター垂涎というモルト・ミルがオークションに掛けられる等、
彼の地のモルト文化の深遠の一端を覗かせてもらう幸せ。

映画好きとしては、スコットランド版「フル・モンティ」との
触れ込みの通り、あの荒涼とした緑の大地とすっかり落ち着いて
ゆったり時間が流れるハイランドの景色、これまたいかにも
というようなスコットランドの社会習俗と、同じ英語とは思え
ない強烈なスコットランド訛りの英語。とくに英語は、私が
蒸溜所めぐりをしたときにはまったく困らなかったのに、この
映画の中で話されていることばは半分以上聞き取れず、とき
おりドイツ語か?とさえ思いました。

最後に、現代の資本主義の社会を通してみる「何もない」偉大
な田舎のスコットランドと、そこで生まれる希少価値が高値を
呼ぶ年代物のモルト原酒、その狭間で漂流するようにゆっくり
流れる時間と、どうすることもできない巨大な歴史のなかで
生かされている人間との、そのコントラストが、通常なら何も
起こらずに時間だけが過ぎているところを、上手に脚本として
映画に仕立て上げた映画人の手腕。さらに、それを「さよなら
興行」に選ぶ銀座の映画館の見識眼。

これらが混ざり合ったブレンドというのは、スモーキーなのか
ピーティーなのか、シェリーか、フルーティか、ヴァニラか、
樽香か、エステル香か、見る人によってそれぞれ味わいが異なる
に違いないというテイストでした。

万物は流転するのがこの世のルールですが、また一方で流転を
名残惜しむのが人間の一面でもあります。きっと、銀座テアトル
さんと本作は、そういう記憶に長く残り続けることでしょう。

感謝!