前々回に発酵臭と書いた軽井沢モルトの特徴は、このカスクで
気がついたものでした。

メルシャン軽井沢20yo 樽番号2321

「発酵臭」という言葉は、ノージングしていてそうそう思いつく
ものではなくて、じつは納豆臭いと感じたものを表現している
からです。アンモニア臭といってもいいかもしれません。

こう書いてしまうと、このウィスキーの品質に難があるように
捉える方もいらっしゃるかもしれませんが、むしろ逆です。

メーカがウィスキーを製造するときには、事前にきちんとした
生産計画があって製造に着手するものですけれども、蒸留した
ウィスキーを熟成させる樽は、ひとつひとつ個性があり、換言
すると当たり外れがあるものです。従って、出来上がるウィス
キーは樽による偶然性がついて回ることは想定されます。

しかし一方想定されない偶然性というものもあって、樽詰め
されたウィスキーが熟成する貯蔵庫のなかで生きている乳酸菌
などの雑菌が、寝かされているウィスキーに作用することも
あるのだそうです。これはウィスキー作りにおける偶然性の
楽しみのようなものでしょう。

そして、この軽井沢蒸留所で作られるウィスキーの一部にも
そういうことが起こっている。それがこの2321番の樽だっ
たということだと思います。いわゆるシェリーバットですけれ
ども、単なるシェリー樽原酒では得られないフレーバーを持ち、
ピート焚きとは異なる種類のスモーキーさを醸し出して、シェ
リーのもつベリー系のような甘みとブレンドしている。

これは樽の個性というのではもったいないくらいの特徴とも
いうべき強さであって、あの蔦で覆われたウェアハウスで生ま
れたウィスキーだからこそが持つ独自のフレーバーといって
いいと思います。

だからゴールデンプロミスでウィスキーを作り、シェリー樽で
させたからマッカランと同じかといえば、決してそうではない
と胸を張って断言できる立派な独自性がありました。

だからこそ、蒸溜所を譲り受けて再稼動させることができないか
と願わずにはいられないのです。

軽井沢20yo.jpg

ちなみに裏面のラベルには、次のような記述があります。

「1955年創業以来、職人達は、ひたすらモルトウィスキーを
造り続けてまいりました。
軽井沢蒸留所に眠るモルトウィスキーの中から、蒸留年をお選び
いただいた原酒を樽で熟成中のアルコール度数のままで瓶詰め
してお届けいたします。軽井沢蒸留所の時間の流れ、蒸留年、樽
ごとに異なる個性、味わいをお楽しみください。」

感謝!