昨日も書きましたが、今回もフランス・パリで画家早川俊二ご夫妻
と一緒に食事をしました。

一昨年から毎年お目に掛かっているので、やぁとか、また来たねと
か、そういった雰囲気なのですが、今年は日本で東日本大震災が起
こったことで、随分と制作の状況に影響があったそうです。

フランスでも震災直後から大きなニュースとして報道されたそうで、
とくにヨーロッパはチェルノブイリの経験から、当時と比較して様々
な視点からの報道が(やや大げさに)されたとのことでした。

母国で起きている大震災と原発事故を、チェルノブイリを比較に報
道が流れる地球の反対側から眺められるというのは、絵を描く職業
の方にとって、(控えめにいっても)非常に大きな関心事であること
は容易に想像がつきます。

「とにかく、今年は仕事が手に付かなかったよ。」と仰いました。

それでも、ご夫妻ともに震災直後から日本と日本にいる知人に様々
な情報を送って下さって、私も日本の報道が混乱しているときには
フランスでの報道を教えていただいたりもしました。

そうした忙しい半年を経ての再会でしたので、震災時と震災直後か
らの状況を交換したあと、自然と絵の話です。

早川さんは、丁度1年前の今日11月30日にウィーンで開かれた
ミケランジェロのデッサン展にお出掛けになっていて、その興奮が
今でも冷めやらないと話されました。曰く「ミケランジェロのデッ
サンは、そこに存在しているんだよ。」

初日にミケランジェロを観たあと、別にブリューゲルやクリムトを
ご覧になったそうですが、そうしたものがまったく入ってこない、
むしろミケランジェロの崇高な感覚を遠ざけてしまうだけというく
らいで、3日間の残り2日はミケランジェロだけで過ごされたそう
です。

絵を描くことを実践されている方というのは、ずぶの素人の私が何
かをいえる立場ではない不遜を承知しつつ申しあげれば、絵の全体
と部分とを自由自在に泳げる人です。

現場では、実物を見たあとすぐにカタログを見て、印象の違いを確
認されたそうです。図版は調子が飛んでおり、またスカスカなのだ
そう。

「存在している」って、早川さんの絵にもあるじゃないですか!と
申しあげたら、まだまだちょっとだよ、と一笑に付されます。

そのレベルに近づきたい、という力強い言葉を伺いました。

来年か、もしかすると再来年か、さらに飛躍した(といってもただ
飛び越えるというものではない)作品を描いてくれるでしょう。

私たちは、パリにいる早川さんを地球の反対側から気に掛けてゆっ
くり待つことにしましょう。

早川俊二ご夫妻
▲早川俊二ご夫妻(うしろ姿)

※速報!

月刊美術の12月号に早川俊二氏のインタヴューと絵が掲載されて
います。絵をご覧になりたい方は、書店頭へぜひどうぞ。


日本画-洋画-彫刻・工芸の鑑賞と収集に役立つ美術情報誌 月刊美術

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