たかがレーシング・カー、されどレーシング・カー。

自動車関係の博物館ではなく、一般の、しかも一級の美術館に所蔵
されるのは、相応の評価ではないでしょうか。

1990年のフェラーリ・モノポスト641/2

ferrari641/2

F1グランプリの世界には「速いマシンは美しい」という言葉があ
るそうです。その逆もまた真かどうかは少々違うようですけれど(笑)。

自動車競走と興行の自然なバランスとして、あるピークを迎えてい
たのが1980年代の後半から1992年くらいまでではないかと
思っているのですが、その時代のちょうど中央に現れたのがこのマ
シンでした。

カーナンバー1は、プロフェッサーことプロスト選手が持ち込んだ
もの。この年以外の前後数年でスクデリーアに1は付かず、27番
の方が受け入れられているのは、情熱とチーム運営との狭間に陥っ
た習慣、はたまた上記の自然なバランスが生み出す悲哀だったか。

ferrari641/2

このシャシーのボディラインをみると、人がラインを描いていた頃
の味が含まれていて、それはこの後数年の後に姿を消していくこと
になります。

ferrari641/2

このクルマのエンジンは、3.5リッターV12型で、現在の2.4
リッターV8型と比べるとその排気量は約1.45倍もあって、確
かに当時の映像をみると、その目の前を通過するときのオーラは、
そういうスケールをもっていました。

しかしながら、本分の競走の世界では、現在よりも遅いところが多
く、やはりレーシング・カーは流体力学が物を言う世界のようです。

その流体力学も、コンピュータ上でのシミュレーション精度の向上
とともに、計算機の中で作り出されるようになっています。

ferrari641/2

もうひとつ、スポーツにせよクルマにせよ人が関わっているという
点については、その美しさの秘密はなんといってもこの「ロッソ・
コルサ」が一番でしょう。

光線があたればピンクになり、モンツァのバックストレートでは紅
色になり、ピットの中では小豆色のようにも見える。

近づいてみれば、炭素繊維強化プラスティックの織目が透けて見え、
その上に単色を塗っているだけ。和三盆のような繊細さ。

ferrari641/2

そういった人の触感に触れるなにかが、美術館に所蔵されることに
なった所以だと考えています。

現在のグランプリ・カーは、何を乗せて走っているのか。

この年以降生まれてくるレーシングカーは、今後美術館に所蔵され
ることになるのでしょうか。

ferrari641/2

キミ・ライコネンが勝ち、ジャンカルロ・フィジケラが
表彰台に載った記念に。

NY・MoMAにて。

感謝!